社内ヘルプデスクやAIの問い合わせ窓口の効果を上司に説明するときは、導入前の数字を自分で取るところから始めます。問い合わせの件数と対応にかかった時間を2週間記録し、導入後に同じ方法で取った数字と並べれば、それが説明の材料になります。まだ導入前で比べる数字がないなら、何を、いつ、どう測って続けるかを説明します。削減率や金額を先に約束する必要はありません。
説明できる数字がないのは、記録がどこにもないからです
「上層部に説明できる数字がない」という悩みは、導入を検討する担当者からよく聞きます。原因ははっきりしていて、社内の問い合わせはたいてい記録されていません。
チャットで聞かれ、廊下で聞かれ、電話で聞かれる。担当者は答えて、自分の仕事に戻ります。受付の仕組みがない限り、件数も時間もどこにも残りません。だから「忙しい」とは言えても、「どれくらい忙しいか」は言えないのです。
上司から見れば、数字のない相談は判断のしようがありません。まず今の状態を数字にします。
導入前の2週間、問い合わせを記録する
記録は表計算ソフトの1シートで足ります。問い合わせが来るたびに1行書きます。
| 日時 | 部署 | 手段 | 質問の要約 | 分類 | 対応時間 | 結果 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 【9/1 10:20】 | 【営業部】 | チャット | 経費精算の締め日 | 答えが決まっている | 【○分】 | その場で回答 |
| 【9/1 14:05】 | 【製造部】 | 電話 | 家族を扶養に入れる手続き | 確認が要る | 【○分】 | 翌日に回答 |
| 【9/2 9:40】 | 【総務部】 | 口頭 | 共有フォルダが開けない | 他部署へ | 【○分】 | 情シスに依頼 |
続けるために、次のことを決めておきます。
- 時間は5分単位の目安でよい。正確さより、2週間続けることを優先します
- 立ち話で聞かれたものも書く。記録から最も漏れやすい経路です
- 分類は「答えが決まっている」「確認が要る」「他部署へ」の3つに絞ります
「答えが決まっている」は、経費精算の締め日を聞かれたらやパスワードを忘れたと言われたらのように、誰が聞いても同じ答えになる質問です。「確認が要る」は、家族を扶養に入れたいと言われたらのように、社員の状況を聞かないと答えられない質問です。
- はい「答えが決まっている」と書く
- いいえ自分の部署で答える質問か
- はい「確認が要る」と書く
- いいえ「他部署へ」と書く
- はい
記録した2週間に月末の締めや年末調整などの繁忙期が入っていたら、表の余白にメモしておきます。導入後に比べたとき、数字の違いが時期によるものかを説明できるようにするためです。
上司に見せる数字は4つに絞る
記録から出す数字は、多すぎると伝わりません。次の4つで足ります。
| 数字 | 出し方 | 上司にとっての意味 |
|---|---|---|
| 問い合わせの件数 | 2週間の行数を月あたりに直す | 担当者の仕事のうち、どれだけが問い合わせか |
| 対応時間の合計 | 対応時間の列を足し、月あたりに直す | 本来の業務に使えていない時間 |
| 答えが決まっている質問の割合 | 分類が「答えが決まっている」の件数を全体で割る | 仕組みで減らせる余地がどれだけあるか |
| よく来る質問の上位10件 | 質問の要約ごとに件数を数えて並べる | 何から手をつけるか |
3つめの割合が高いほど、FAQやAIで受けられる範囲が広いことを示せます。反対に「確認が要る」ばかりなら、窓口の仕組みより社内ルールの整理が先かもしれません。そう書いたほうが、上司は数字を信用します。
金額に直すかどうかは、上司の求めに合わせます。直すなら「対応時間の合計×時間あたりの人件費」で出せます。その場合は、使った単価の出どころを書き添えます。浮いた時間がそのまま人件費の削減になるわけではないので、「本来の業務に回せる時間」として示すほうが実態に合います。
報告の文例
上司への報告は、今の状態、やりたいこと、測り方、判断の時期の順に書くと読まれやすくなります。【】は自社の数字や日付に置き換えます。
- 1今の状態(件数と対応時間)を書く
- 2やりたいことを書く
- 3導入後の測り方を書く
- 4続けるかを判断する時期を書く
総務への社内の問い合わせを【9月1日から2週間】記録しました。件数は【○件】、対応時間は合計【約○時間】で、月に直すと【約○時間】です。
このうち【○割】は、経費精算の締め日やパスワードの再設定など、答えが決まっている質問でした。よく来る上位10件で、全体の【○割】を占めています。
そこで、答えが決まっている質問に社員が自分で答えを得られる窓口を【3か月】試したいと考えています。導入後も同じ方法で2週間記録し、件数と対応時間を比べたうえで、続けるかどうかを【12月末】にご相談します。
この文例では、効果の見込みを数字で書いていません。書いているのは、今の数字と、あとで比べる方法だけです。導入前に見込みの数字を書くと、それが目標として扱われ、達成できたかどうかだけで評価されやすくなります。
上司に聞かれやすい質問と答え方
報告すると、たいてい次のような質問が返ってきます。答えを用意してから持っていきます。
| 聞かれること | 答え方 |
|---|---|
| で、いくら浮くの? | 対応時間の合計を示し、「この時間を【月次決算の準備】に回します」と使い道で答える。金額を求められたら、単価の出どころを添えて試算する |
| 人を減らせるの? | 約束しない。「問い合わせが増えても今の人数で受けられるようにする」と答えると、導入後に数字で確かめられる |
| AIが間違えたらどうするの? | AIに答えさせない話題と、担当者が回答を確認する範囲を決めていると伝える。最初の数週間は確認の手間が増えることも先に言う |
| 社員はITが苦手だけど、使うの? | 普段使っているチャットツールから聞けるか、使い方を誰が案内するかを答える。使われているかは、導入後の記録の件数で確かめる |
「社員のITリテラシーが低い」という心配は、担当者自身も持っていることが多いはずです。ここは隠さず、「使われなかった場合は3か月後の記録でわかる」と答えておくと、試すことへの抵抗が小さくなります。
数字に出にくい効果は、出来事として数える
問い合わせの受け方を変えたときの効果には、件数や時間に表れにくいものもあります。「社員の満足度が上がった」と書いても、上司の判断材料にはなりません。数えられる出来事に置き換えます。
- 担当者の休みの日や、定時を過ぎてから来た質問に答えが返った件数
- 担当者が会議や外出で席を外している間に来た問い合わせの件数
- 異動してきたばかりの担当者が、前任者に聞かずに答えられた質問の件数
どれも、導入前の記録に「受けた時刻」と「誰が答えたか」の列があれば、あとから数えられます。記録を始める前に、この2列を足しておきます。
避けたい説明の仕方
- サービス提供会社の資料にある削減率を、自社の見込みとして書く。問い合わせの中身が違えば数字は変わります
- 導入から1週間の数字で判断する。最初は準備と確認の作業が上乗せされるので、手間が増えて見えます
- 「問い合わせがなくなる」と説明する。状況を聞かないと答えられない質問や、担当者が直接受けるべき相談は残ります
どれも、導入直後は通りやすい説明です。困るのは半年後、実際の数字と比べられたときです。
試したあとの報告も、同じ形で書く
試験期間が終わったら、最初の報告と同じ数字を同じ順番で並べます。思ったほど減らなかったときも、形は変えません。
【10月1日から2週間】、導入前と同じ方法で問い合わせを記録しました。担当者が自分で答えた件数は【○件から○件】、対応時間は【約○時間から約○時間】でした。
一方で、AIの回答を確認する時間が【約○時間】かかっています。確認している回答のうち、実際に直したのは【○件】でした。次の3か月は確認の範囲を規程に関わる質問に絞り、同じ方法で記録を続けます。
減らなかった理由と次に何を変えるかが書いてあれば、上司は続けるかやめるかを判断できます。数字がよくなかったことより、判断の材料が出てこないことのほうが、次の相談を通りにくくします。
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